チェトウインド インターナショナル チェーンソーカービング チャンピオンシップ 2008
2013.12.18更新
一年前フォート・セント・ジョーンズ空港に降り立った時の気持ちは今でも覚えている。 チェットウィンド町へ着いたときのことも。人生で最高の一週間を味わえたと感謝をした。
そして私はまたチェットウィンドに来た。今年の大会は甘くない。昨年の出場者は私に勝つために来ている。新しい出場者には強豪がいる。USAのボブ・キングは、米英独大会で何度も優勝している凄いカーバーだ。カナダのグレン・グリーンサイデスは、日本の猪苗代で12体の巨大干支彫刻を手がけた有名なカーバーだ。
今回はただただ精一杯やるだけだと覚悟を決めていた。チェットウィンド出発10日前に行われた東栄大会で鯉を彫った。ウロコを彫るという事で同じ要素もあったが、チェットウィンドで龍を彫るので、自分の中で飛躍と言う思いを込めたかったからだ。しかし龍を彫る準備は御粗末だった。
出発前に2体龍を彫ったが全然良くない。良いデザインが浮かばない。チェットウィンド大会は未発表の作品であることも大きな採点基準になる。
飛行機の中では、ずっーと考えたが良いデザインは浮かばない。チェットウィンドに着いた初日の夜はデザインが決まらない焦りから殆んど眠れなかった。
翌日、抽選会で8番を引いた。末広がりで縁起が良い。このデザインにしようと思った。横にすれば無限大を意味する。素晴しい形だと思ったが材が太く彫ったことの無い形なので奥まで彫りきれるか心配だった。しかしここまで来ては後はやるだけだと覚悟を決めた。
チェンソーはエコーCS670・24インチバー、CS520・18インチバー、CS37016インチカービングバーを使用する。
CS520は325ピッチでセフティー・ソーチェンのために切れが悪かったが、カービングバーとチェンを持参していたのでそれと交換した。
1日目にラフカットを終え、ひび割れ部分と腐れ部分にグルーを注入し、強度を保てる様にした。
2日目、おおよその形を彫り終え、背びれを彫っていて失敗は発生した。最初に8の字の下部分の背びれを彫った。しっかり下半分を彫り、上部にかかろうとしてミスに気づいた。何と前後の向きを逆に彫ってしまったのだ。自分に嫌気が差した。2,3分放心状態になったが、すぐに気を取り戻し修正にかかった。そのためにウロコ彫りの時間はかなり少なくなってしまい、下書きはせずにチェンソーのみでライン彫りをした。
3日目、その鱗に凹凸感を出すために深く再度彫りこむ。そしてディスクサンダーで滑らかな丸みをつける。結構時間がかかり塗装は今回も最終日になってしまった。
私は3日半35時間でぎりぎり作品を完成させた。塗装が予想以上にかかる。理想は3日目に1度塗り終えて、最終日にもう一度塗るのが良いのだが、3日目時点でチェンソーワークを終えサンディングとバーニングするのが限界だった。
最終日、1時間は細部を再チェックして残り4時間で塗装をした。前日塗装をしていないので木口はウッドシーラーを何度塗り重ねても浸み込んでしまい苦戦した。
最終日のボブは時間的に余裕があり、競技外のクマを彫ったりしていた。実質35時間かけずに仕上げているのだから、やはり彼は凄い。全体の構成、細部の仕上がり、特に肉体の表現は本当に素晴しい。
私よりハードだったのは4位になったダンだったろう。彼は最終日にもかなりチェンソーを回さなければならない状況だった。あの状況でよく仕上げたと思う。
ジェリーはグースを彫っていたのだが材の腐れがひどくグルーでも固定不可能だった。仕方なく途中デザイン変更し、一回り小さい親子鯨とタコを見事に完成させた。
グレンの彫刻はやはり凄かった。クーガーと聞いたがしっぽの長さから見るとボブキャットのようだ。抽選で当たった材料が細く作品が小さめになってしまったのは、巨大彫刻を彫る彼にとっては不運だった。それでも細部の表現はリアルで躍動感がある。
ナイルは大きなクマのゴルファーを彫った。なんとなくナイルに似ている。同じ大きさの木で彫ったのかと疑うほど大きなクマだ。
ケイ・ジャクソンは今年初出場の女性カーバーだ。御主人がサポートを行っていた。イーグルの親子とクマを上から順に手早いチェンソーワークで彫りあげた。
英国から出場したリチャード・オースチンも初出場で巨大ベンチを制作した。乾いたレッドシダーとはいえ4分割した材を組み合わせるのは大変そうだった。ベンチの両サイドには見事な花の透かし彫り施されている。
エルマーは鷲と馬の頭。チェンソーの後は一切残さない綺麗な仕上がりだ。
ブレイン・ブレイクは鞍と昼寝するカーボーイ。ブレインは唯一チェットウィンドのカーバーだ。
3日目の夜はブレイン邸でバーベキューパーティーを行った。ステーキの大きさは半端じゃなかった。私は半分で腹いっぱいになった。ジェリーはウォッカにオレンジジュースとジンジャーエールをミックスしたカクテルを私に勧めた。これが、口当たりが良くて寒さも手伝い、ついつい飲んでしまいかなり酔っ払った。夜と言っても明るいので時間を忘れてしまうが10時近かったのでナイルと一緒に帰った。
ケン・シーンは白鳥とマッシュルーム。私には組み合わせが良く理解できなかった。ケンの彫刻は2番目に多くチェットウィンドの町に展示されていて、インフォメーションセンターで販売もしている。
ボンゴ・ラブはアフリカのジンバブエから初出場。チェンソーカービング歴はまだ浅いようだが、作品のバランスといい細部の仕上がりといい凄い。
3日半、35時間はかなりきつい競技だが、来場者が応援してくれるので元気が出てくる。
メインカービングを終了すると、1時間のクイックカービングを行う。このときは観客でいっぱいになる。そして作品は終了後、オークションにかけられる。
ボブのクマが650ドルで最高だった。私の犬は満足のいく彫りは出来なかったが、600ドルで落札された・・・。
審査結果の発表は、緊張の瞬間だ。優勝はいちばん最後に発表される。4位はダンだった。チェンソーの荒さを逆に生かした躍動のある作品だ。3位はグレン。そして2位はボブ。
この時まだ呼ばれていない私は優勝と言う事になる。なんともいえない気分だった。盾を受け取り降りると、また私の名前が呼ばれた。ピープルズチョイスも獲得できたのだ。
去年、最高の感激を味わったと思ったが、今年はその感激を越えたものだ。ドラゴン8が無限を感じさせてくれたと思った。
(記事:栗田 宏武)