全日本チェンソーアート協会

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海外遠征日記

チェトウインド インターナショナル チェーンソーカービング チャンピオンシップ 2007

2013.12.17更新


6月7~10日の4日間カナダでチェトウィンド インターナショナル チェンソー カービング チャンピオンシップが行われた。3日間はAM8時からPM6時までの10時間、最終日はAM8時からPM1時までの5時間、合計35時間でメインピースをカービング、サンディング、バーニング、ペインティングを行い完成させする。材料はレッドシーダーで直径1mから1m40cm、長さは2、4mものを抽選で決める。競技はアメリカ4人、カナダ7人、日本1人の12人で行われた。

チェトウィンドはアラスカハイウェイ沿いにある町で、6月の日没はPM9時ころだ。アラン・マッキー氏のログスクールがあったプリンスジョージから、車で3時間ほど北上した所に位置する。空港はドーソン・クリークが一番近いが、私はエアーカナダが乗り入れているフォート・セント・ジョーンズ空港に行った。

主催者であるヘレンさんの御主人が迎えに来てくれた。フォート・セント・ジョーンズーチェトウィンド間は、車で2時間程。道は殆んど直線で、両側には広大な牧草地と林が続く。車は数台しか走っていないが、途中、牛の群れが横断するので渡りきるまで停車する事もある。

競技はリードカーバーとアシスタントで行う。リードカーバーはチェンソーワークを含め全てを行い、アシスタントはサンディングやペインティングなどカービング以外の作業を行う。ギャラリーの質問に答えたりするのもアシスタントの大切な仕事だ。

皆アシスタントがいたが、私はひとりなので全てをこなす。ギャラリーには笑顔のみで対応。しかし足場の移動は一人は大変だ。競技開始時には足場が一組しかなかったので、前面に設置し出来るだけカットする事にしたのだが、材が大きいので全体を削り落とさないとバランスが良いのかどうかわからない状態だった。

反対側は切り落とした材に乗ってカットしたが、スチール046のパワーはチョット抵抗をかけると私の体を押し落としそうになった。昼近くにもう一組足場が邸cヘき、ようやくスムーズに四方からラフカットが出来るようになったのだった。

競技で使用するチェンソーは、主催者に用意をお願いしておいた。

スチール046、MS270、MS180の3台だ。1日目046で材料上部のワシをラフカットして、MS270で形を整えた。羽の細部はMS180で彫ったのだが、苦戦した。180にカービングバーを装着してあるのだが、ソーチェンがピコマイクロミニ90SGだった。ミニは刃と同様の形をしたデプスがついていて安全性は高いのだろうが、切れ味はいまいちだ。チェンのデプス上部と脇をかなり落としたが。乾燥したレッドシーダーの繊維切れは悪い。

焦りを感じた私は、日本から持参した16インチカービングバーを046にピコマイクロ91VSチェンを装着し、カットした。046のパワーでカットするとよく切れるが摩擦が激しく、チェンオイルが焦げて煙が凄いし、私の体力がチェンソーの重量に絶えられず、休み休みの作業となった。

1日目終了後、180のソーチェンも町のショップで91VSに変えてもらう事にした。

第2日目の朝5時起床。6時にモーテルを出発。会場までの距離は1km程あり途中のホテルで朝食をとる。私はいつもナイル氏のダブルキャブに乗せてもらっていた。ナイル氏は奥さんをアシスタントに、息子のヘンリーは彼女をアシスタントに連れて来ていた。

私がこの競技大会に出場する事になったのは、昨年の優勝者ブライアン・ルース氏が今年出場出来なくなり、奥さんのジェンが私を主催者に紹介してくれたからだ。私にとって見知らぬ競技大会に一人で臨むのは不安だったが、リッジウェイランデヴーで何度も会っていたナイル氏の出場を聞いて少し安心した。そして競技大会では、その安心どおり全てにおいて御世話になった。ナイル一家は本当に良き友人である。

私の作品は、ジャレットの作品とかなりかぶっていた。ジャレットはミネソタのカーバーで、若いが良い作品を速く彫る。初日でサーモンを捕まえたワシと2頭のクマを材全体に彫り終えていた。私は、その時、ワシが彫れただけで材の半分以上は皮がついたままだった。

2日目は、全体を彫り終えなければ、と気合いを入れて望んだ。最初、クマは上半身だけ大きく彫るつもりでいたけれど、材が予想外に太いので全身を彫ることにした。川を泳ぐサーモンは大きく飛び跳ねた状態にしたかったのだが、クマの足部分にチェンソーが届かずほれないので、下げなければならなかった。ホゾ加工をして差し込む方法もあるのだが、私はこの太い丸太を一本のまま彫り上げたかった。

2日目で全体の形を彫り上げ、3日目前半で細部の仕上げをして、後半にバーニングとサンディングをする。最終日に細部の補正と塗装をして完成、と考え、時間的にはゆとりがあるだろうと思っていたのだが、予定通りスムーズにはいかなかった。

私の作品のテーマは、“Lifeisshortveryhard”

川に鮭を4匹と鯉を一匹彫り、そのうちの1匹の鮭が飛び跳ねている。その鮭を捕らえようとするワシ。クマも飛び跳ねた鮭を見つける。
主役はこの鮭で「水上はクマやワシがいて危険がいっぱいだが、飛び跳ねてみようぜ!新しいものが見えるぞ。人生は短いのだから。」という想いのデザインだ。
鮭に混ぜて日本の鯉を一匹彫ったのは日本から一人参加した自分を表すためだ。

3日目の前半は順調に細部を彫り上げたつもりだった。

後半サンディングをしたが彫りの深い所の毛羽立ちが仕上げられなかったのでバーナーで焼きブラシをかけて再度サンディングをした。そこにケン・シーンが来て、「クマの毛並みにウエーブがあった方が良い。クマの顔に骨格を表現すると良い。」というような指摘をしてくれた。確かに毛足が短く、クマの大きさとアンバランスだ。顔は私も単調だと思っていたのだが、どうしたらよいかわからなかった。日本で今まで彫ったクマは小さく顔の骨格まで表現する事が無かったからだ。
ケンは迫力あるドラゴンを彫っているカナダのカーバーで、チェックも鋭い。

どうしようか悩んでいるところに、ジェリーがやって来た。そして「熊の顔は目がもっと真ん中に寄っている。目の大きさも違うぞ。ワシの目も大きさが違うぞ。」という様な指摘だ。私はチェンソーで目を丸く彫り込んだので若干大きさが違ったのだが、全体が大きいので然程気にしていなかった。ジェリーはパワーツールにタイフーンビットを取り付け魚のうろこを一枚一枚彫りこみ、そのうえリアルな着色をした繊細な作品を作るカーバーなので凄く気になったらしい。

3日目の残り時間は1時間足らずだった。私がますます悩んでいる時に、雨が降ってくるから終了する様合図があった。

明日は最終日で塗装をしなければいけないから、皆、濡れないようにシートをかける。
ゴミ袋を切り広げてかけているカーバーもいたので私も真似たが、材が大きすぎて手に負えない。すると、ケンがブルーシートを貸してくれた。私の隣で養生をし終えたブレインと奥さんが手伝ってくれ、土砂降りになる前に養生が出来た。

安心すると同時に、悩みがよみがえってきた…。

最終日の朝は、7時半にスタートした。昨日雨で中断した分がプラスされたのだ。

選手は殆んど電動工具で仕上げに入っているので、チェンソーの音はあまりしない。私一人がチェンソーを唸らしている感じだった。まずクマの顔を彫りなおした。続けて、毛並みも全て彫りなおした。最後に、ワシの右目を左目と同じになるように慎重に削った。そして再度バーナーで焼き、ブラシをかけ終えたのは10時近かった。

塗装用にウッドシーラーが2ガロン支給された。刷毛塗りが予想外にてこずった。ウッドシーラーは粘度が高く伸びが悪いのに、乾いたレッドシーダーはどんどん吸い込んでしまい、1度塗りでは見栄えがしない。再度上から塗り重ねる。3度目は時間が押し迫り、結構あせっていた。ギャラリーがなにやら騒がしかったので振り向くと、鯉の裏側が塗られていないと言うことのようだった。終了まで数分というところだったのでギャラリーの応援は助かった。塗料は2ガロン全て塗りつくした。

ナイルは一昨年の優勝者であり、今年の作品も独創的なものだった。ビスの使用がOKなので、40個程のパーツを組み立てて「鉱夫のランチワゴン」を完成させる。
私は大きな木なので一刀彫にこだわったが、日本は大きな木の確保が難しいので、細い木を組み合わせて作る作品も面白いと思った。

ヘンリーは抽選で細い木に当たってしまったが交渉して4番目に太い材と交換し、更に交渉して1番太い材を獲得した。そしてWildBillを仕上げる。
エルマーのGuardianは、完璧に磨き上げられていた。杖のトップにも同じ顔が繊細に彫られている。チェンソーだけでは到底仕上げられない作品だ。

審査結果は、3位がダン・リッチーだ。2羽の白頭鷲をエアーブラシで着色した迫力ある作品。2位はドラゴンを彫ったケン・シーン。

そして、1位はなんと私だった。更にピープルズチョイスも私だった。あせりながらカービングをした第1日目を思い起すと、優勝などとても信じられない。

私に届いたジェンのメールに昨年の優勝者ブライアンの作品が添付されていた。「凄い!」と思った。自分に何処まで出来るかわからないが挑戦してみようと思い、独りチェトウィンドへ行く事を決めた。成田空港出発時の不安、フォート・セント・ジョーンズ空港へ降り立った時自分に入れた気合、チェトウィンドに到着した時の感動、ナイルとの再会、大会前夜祭での丸太抽選会の緊張……。ステージに立ちながらいろいろな出来事が一瞬のうちに想いめぐった。幸運を感じた。

私をチェトウィンド・インターナショナル・チェンソーカービング・チャンピオンシップへ誘ってくれたブライアンとジェンに感謝する気持ちでいっぱいだ。
そして、私の招待を決めてくれたヘレンと応援してくれたチェトウィンドの人々にも感謝する。もちろん、共に競い合ったカーバー達の助けによってつかむ事が出来た栄光であることも私は忘れない。ありがとう。

後日、チェトウィンドからメールが届いた。私がクイックカービングで彫った梟を落札してくれたシンディーさんからだ。御両親の結婚50周年記念にプレゼントされたそうだ。
チェンソーのみで彫り上げた梟を、綺麗に仕上げてポールの上に取り付けている。木彫は底部分が腐りやすいのでポールに取り付けるのは良い方法だ。

(記事:栗田 宏武)


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